アメリゴ・ヴェスプッチからクリストファー・コロンブス(クリストーフォロ・コロンボ),ジョン・カボット(ジョヴァンニ・カボート)に至るまで,イタリアには探検と移住の長い伝統があります。イタリア人は何世紀にもわたって,探検や発明,冒険を重ねてきました。イタリア人は1800年代から様々な理由で他国へと移住していきましたが,その最も顕著な理由は,自らの成長のため,また雇用の機会を得るためでした。1880年から1920年にかけて,何百万人ものイタリア人が,ブラジルやアルゼンチン,アメリカ合衆国,カナダなどに移住していきました。今日,8,000万人近くに上るイタリア移民1の子孫はイタリア国外に住んでおり,自分のイタリアの受け継ぎをたどることが世界中で盛んになっています。
歴史の概要 — イタリア系移民はどのような人々で,なぜ国を去ったのか
「我々の民は移住しなければならない。国外には無限の機会とあり余るほどの場所があるからだ。—パスカル・ディアンジェロ,“Son of Italy”(『イタリアの息子』)

歴史的に,イタリアは都市国家から形成されていましたが,外国による支配から独立しようと,1859年から1871年にかけて統合されました(イタリア統一運動)。そして,新たな思想を持った新政府によって,政治的,文化的な変化がもたらされることになります。新政府は折に触れて,イタリアによる植民地化政策およびイタリアの言語や文化を世界中に広めることを強調しました。この統一運動により,税金が増加し,北イタリアと南イタリアの間に社会経済的な格差が生じるようになりました。多くの市民,おもに南イタリアの農村部に住む貧しい人々は,貧困から脱し,自らが置かれている状況を改善しようと心に決め,外国により良い職業と将来の成長の機会を求めることにしたのです。こうしたイタリア移民のほとんどは貧困労働者や農民でしたが,中には技術者や商人,職人もおり,共に確固とした労働倫理を持ち合わせていました。
1890年代以前は,イタリア移民の大多数が北イタリア出身の人々でしたが,1890年以降になると,移民の大半はイタリアのメッゾジョルノ(南イタリア)地域である,アブルッツォ,モリーゼ,カンパニア,プーリア,バジリカータ,カラブリア,シチリア,サルデーニャに集中していました。イタリア移民の内,3割から5割が5年以内にイタリアに帰国しました2。外国に残った人々は,新たな国で自分の家族や,イタリアの受け継ぎ,文化に対する深い愛を新たにし,そのうちの多くは,まだイタリアにいる家族を養うため,必要とされている仕送りをしたのです。
イタリア移民の目的地
イタリアを出国する際の主要な港は,ジェノヴァ,ナポリ,パレルモでした。目的地の多くは,ブラジル,アルゼンチン,アメリカ合衆国,ベネズエラ,カナダでしたが,思いもよらない目的地もあるかもしれません(下記の表を参照)。

通常,各国には入国港が幾つか存在していました。例えば,アメリカへのイタリア移民を調べる際,皆さんは,当時主要な港であった,ニューヨーク,ボストン,フィラデルフィア,ニューオリンズから移民記録を探し始めるかもしれません。しかし,イタリア系先祖を調べる際は,一つの港に限定することのないよう注意してください。わたしは祖母から,曾祖父のバルトロメオ・ガンビーノはニューヨークからアメリカ合衆国に入国したと聞いていたのですが,実際は,ボストンからだったのです。また,先祖が移住先の国に何度も入国していたからといって,驚く必要はありません。イタリア移民の中には,永久にとどまるつもりのない人々もいましたし,到着後,イタリアに戻って家族を連れてこようと決めた人々や,しばらくイタリアに滞在することにした人々もいたからです。イタリア人の移住のピーク期が1800年代後半から1900年代初頭にかけてだったため,家族の中には,自分の家族がいつ,どこへ移住したかを覚えていたり,出身地を特定するのに役立つ記録を持っていたりする人がいる場合があります。
イタリア移民記録
皆さんが自分のイタリアの系図を探究する際に,様々な種類のイタリア移民記録を利用することができます。主要となる記録の種類は,国によって異なります。イタリアに存在している可能性があるのは以下の記録です。
- 旅券申請書類:イタリアから移住する人が母国を離れる準備をする際,旅券申請書類への記入を済ませているはずです。(残念ながら,この申請書類の大半は破棄されていますが,地元に残っている記録もあります。)
- 軍人徴募(徴兵・兵役記録): このような記録は,先祖の出生地を特定するうえで大変役に立つ情報源となります。
- 教会記録:このような文書には,洗礼,出生,結婚,死亡記録が含まれており,何世代にもわたる情報が記載されていることがよくあります。
- 住民登録:こうした住民記録から,出生記録,結婚記録,死亡記録を調べることもできます。
イタリア人の先祖の出生地が不明な場合は,移民先の国で作成された記録を調べることから始めることをお勧めします。また,皆さんは家族から受け継いだ,外国人登録やグリーンカード,パスポート,出生・結婚・死亡証明書,死亡記事や葬儀案内状,手紙やその他の書簡,帰化証明書などの文書をお持ちかもしれません。
移住先の国では,政府や教会役員,地方組織の作成した以下の記録も考慮に入れることができます:
- 連邦および州の国勢調査
- 出生,結婚,死亡記録
- 教会記録
- 乗客名簿
- 帰化記録,外国人登録
- 従軍記録
- 市町村の名簿,新聞,協会記録,および団体記録

ここに写っているのは,1909年に曾祖母のマリア・アチェッタが娘のフィリッパ・ルッソとともに渡航したときの記録です。
イタリア系図探求のためのその他のヒント
乗客名簿に記載されているイタリア移民の先祖の名前のつづりと,イタリア本国の記録に記載されている名前のつづりは十中八九同じはずです。乗客名簿は大抵,船がイタリアを出る前に,出国港で記入されていました。アメリカ合衆国での通念に反して,名前は入国港で変えられた訳ではなく,イタリア人の先祖が新しい土地になじんでいく中で変化していったのです。例えば,わたしの曾祖父の名前はマッテオ・ルッソでしたが,アメリカ合衆国の様々な文書で,曾祖父の名がマイク,マット,マーティンと書かれているのを見つけました。
頭に入れておいていただきたいのは,イタリア人の女性は通常,イタリアの公文書に自分の旧姓を使用しているということです。つまり,乗客名簿に,旧姓を名乗った女性の名前とともに,一緒に乗船している,父親の姓を名乗った未成年の子供の名前が載っていることはよくあることなのです。
イタリア人の家族を見つけるのに役立つ,乗客名簿やその他の記録は,ファミリーサーチ,Ancestry,MyHeritageで見つけることができます。さらに,ファミリーサーチは,イタリアの住民登録をほぼ全部オンラインで公開しています。
多くの場合,イタリア人は一人で渡航することはありませんでした。自分の直系の先祖の出身地を見つけられなかったら,調査の範囲を兄弟や隣人,友人まで広げてみましょう。煎じ詰めれば,これは家族のことなのですから。
イタリア移民の歴史に関するその他の出典
- Mark I. Choate, Emigrant Nation: The Making of Italy Abroad (Cambridge, Mass: Harvard University Press, 2008).
- Pascal D’Angelo, Son of Italy (Toronto: Guernica Editions, 2003).
- “Italy Emigration and Immigration,” FamilySearch wiki, last modified 28 April, 2018.
- Jerre Mangione and Ben Morreale, La Storia: Five Centuries of the Italian American Experience (New York: Harper Collins Publ., 1992).
- Joan Rapczynski, “Italian Immigrant Experience in America (1870–1920),” https://teachersinstitute.yale.edu/curriculum.
脚注
- “Italians,” Wikipedia.org, last modified 26 July, 2018. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E4%BA%BA
- Trafford R. Cole.Italian Genealogical Records: How to Use Italian Civil, Ecclesiastical, & Other Records in Family History Research (Salt Lake City: Ancestry Incorporated, 1995).
スザンヌ・ルッソ・アダムス,学芸修士,認定系図学者による記事。スザンヌは現在ファミリーサーチのコンテンツ戦略に携わっており,以前はAncestry.comで勤務していました。彼女は,ブリガム・ヤング大学を卒業し,社会学で理学士号,家族歴史と系図学の文学士号,ヨーロッパの歴史の修士号を取得しています。また,系図専門家協会 (APG), ユタ州系図協会 (UGA), ICAPGenの役員を務めてきました。スザンヌは,“Finding Your Italian Ancestors: A Beginner’s Guide”(『イタリア系先祖を見つける:初心者のためのガイド』)の著者であり,NBCのヒットシリーズ,‘Who Do You Think You Are’(「フー・ドゥ・ユー・シンク・ユー・アー」)第1シーズンの主任研究員でもあります。